急性心不全の看護計画では、呼吸の苦しさと全身へ血液が届いているかを継続して確認し、悪化を捉えて治療につなげます。肺や全身に血液・水分が滞る「うっ血」と、臓器へ十分な血液が届かない状態は、同時に起こることもあります。本記事は成人の急性心不全による入院初期から、状態が安定して退院準備を始める時期までの学習用例です。新たな発症と慢性心不全の急な悪化の両方を想定し、病態、治療方針、併存疾患に合わせて個別化します。
看護計画名:急性心不全に伴う呼吸・循環の変化と安楽な療養の困難
看護目標
期限は例です。生命を脅かす変化があるときは、目標評価より緊急対応を優先します。改善を患者の努力だけに求めず、治療と必要な支援を含めて設定します。
短期目標
・次のケア時までに、呼吸の苦しさや胸の不快感を、言葉・表情・しぐさでスタッフに伝えることができる
・当日中に、必要な治療と体位の調整を受け、本人が楽と感じる姿勢で休息できる
・次の24時間に、呼吸・循環状態に合う介助を受け、過度な負担を避けて排泄できる
・状態が落ち着いた次の説明時に、援助を呼ぶ方法と、今受けている治療について不安を相談できる
長期目標
・退院または転棟時までに、設定された活動範囲と援助方法で、食事・清潔・排泄に参加できる
・退院時までに、支援を受けながら、本人に必要な体重・症状の記録方法を確認できる
・退院時までに、服薬、食事、水分管理について、個別の指示を生活に取り入れる方法を相談できる
・療養場所の移行時までに、悪化時の連絡先と救急要請が必要な状態を、必要な支援者と確認できる
看護計画
全項目を一律に実施する計画ではありません。観察頻度、報告基準、酸素や活動の指示をチームで共有します。
O-P:観察・評価項目
・呼吸数と呼吸の深さ、会話のしやすさ、SpO₂、呼吸音、咳・痰、横になると苦しくなるかと楽な姿勢
・血圧、脈拍・リズム、胸痛、意識、皮膚の冷たさや色、冷汗、強い倦怠感の変化
・尿量と測定時間、排尿回数、摂取量・輸液量、利尿薬の投与時刻とその後の反応
・浮腫の部位と程度、頸静脈の張り、腹部の張り、体重の推移と測定条件
・指示された腎機能・電解質、胸部画像、BNP等の結果と前回との差
・酸素・呼吸補助装置の指示と装着状態、点滴部位、処方薬の効果と有害事象を疑う変化
・安静時とケア・活動前後の息切れ、血圧、疲労、食事摂取、睡眠、必要な介助量
・入院前の服薬・食事・水分、感染症状、生活上の負担と本人の理解、不安、支援体制
T-P:ケア・実施項目
・強い呼吸困難、意識低下、冷汗を伴う循環の悪化、新しい胸痛などは直ちに応援を求め、観察票の記入を待たず医師の評価と院内急変対応につなげる
・変化した時刻、直前の状態、酸素使用や投薬との関係を簡潔に報告し、指示された間隔で再評価する
・意識、血圧、本人の反応を確認し、禁忌がなければ上体を起こすなど呼吸が楽な姿勢を支える
・酸素は低酸素血症などの必要性と目標範囲を確認して指示に沿って実施し、投与方法・流量と反応を記録する
・呼吸補助が必要な場合は装置の準備・装着を支援し、漏れ、苦痛、意識や呼吸の変化を観察して報告する
・利尿薬等は処方に従って実施し、尿量だけでなく呼吸、血圧、腎機能・電解質の変化を確認する
・排泄はベッド上、尿器、ポータブルトイレなどから負担に合う方法を選び、尿道カテーテルは適応と指示を確認する
・食塩・水分の指示、栄養状態、口渇を確認し、食事をとりやすい環境や口腔ケアを整え、管理栄養士と相談する
・呼吸・循環が不安定な間は負担を減らし、安定後は専門職と開始・中止基準を共有して段階的に活動する
・深呼吸等の練習は一律に行わず、必要性と実施可能な状態を専門職に確認し、苦痛が増せば中止する
・ケアを短く分けて休息を挟み、そばで短く説明しながら不安と援助の希望を確かめる
E-P:教育・説明・生活支援
・苦しくなったときは自分で歩いて知らせず、呼び出し方法を使い、援助を待つことを説明する
・酸素や薬剤、活動の範囲は自己判断で変えず、苦痛や気になる変化は伝えるよう説明する
・状態が安定してから、本人に必要な食塩・水分量と調整条件を確認し、無理なく続ける方法を相談する
・体重と症状をどの条件で記録するか一緒に試し、記録が難しい場合は支援者や方法を調整する
・薬の目的、注意する変化、飲み忘れ・体調不良時の相談先を薬剤師と共有して説明する
・退院後は、急な強い息苦しさ、胸痛、反応の異常では119番へ、体重や浮腫等の変化は事前に決めた連絡基準で相談するよう説明する
・本人の同意を得て家族等にも支援方法を伝え、付き添いや管理を一人で背負わないよう相談先を確認する
O-P・T-P・E-Pの背景と根拠
O-P:呼吸・循環と治療後の反応を組み合わせる
心臓の働きが低下すると、血液が肺や体に滞る「うっ血」が起こり、息切れやむくみとして現れます。同時に、腎臓などへ届く血液が減って尿が少なくなることもあります。呼吸、意識、皮膚の冷たさ、尿の変化を一緒に確かめ、体重だけで状態を判断しないことが大切です[1]。
呼吸数は1分間の呼吸の回数、SpO₂は血液中の酸素の状態を推測する値です。値だけでなく、会話が続くか、横になると苦しくなるかも見ます。酸素を使っている場合は装置と流量も添えて記録し、前回と同じ条件で比べられるようにします[3]。
利尿薬は余分な水分を尿へ出すための薬です。投与後は尿量だけでなく体重、腎臓の働き、血圧などを併せて確認します。尿が増えても、ふらつきや体調悪化があれば、その情報も治療の評価に必要です[2]。
例えば「投与後に排尿が増えたが、起き上がるとめまいがある」と記録すると、排泄介助と治療の見直しを相談できます。強い苦しさや反応低下があれば、測定項目を埋めるために待たず、先に応援を呼びます。申し送りでは、観察した事実と患者の言葉を分けます。「悪化しているようだ」だけでなく、どの動作で何が変わったかを示すと、次の担当者も比較できます。
T-P:呼吸を楽にし、治療と活動を支える
肺に血液や水分が滞ると、横になったときに呼吸の苦しさが強くなることがあります。意識が保たれ、本人の苦しさを確認できる人で、上体を起こすと楽になる場合は、無理に仰向けを続けず、背中を起こす方法を検討します。ただし姿勢を変えるだけで原因が治るわけではなく、必要な治療を受けながら行う安楽への援助です[1、3]。すでに血圧が低く反応も鈍いなど、循環が不安定と疑われるときは、姿勢の調整だけを先に進めず、応援と医師の評価を求めます。
例えば、ベッドの背もたれを調整し、必要に応じてクッションで背中や腕を支えます。「この姿勢と先ほどでは、どちらが息をしやすいですか」と尋ね、会話の続けやすさ、呼吸数、SpO₂、血圧、呼びかけへの反応を変更前後で比べます。一定の角度を全員に当てはめず、姿勢を保つ疲れやずれも確認します。体を動かす制限がある場合は、その指示を確認してから調整します。
上体を起こした後にめまい、冷汗、反応低下が出た場合は、楽そうに見える姿勢でも固定して続けず、安全を確保して応援と医師の評価を求めます。足のむくみに対する援助と肺のうっ血による呼吸苦への援助は目的が違います。足を高くする方法を、呼吸が必ず楽になる処置として一律に使わないようにします。
酸素は、息苦しい全員に同じ流量で使うものではありません。血液中の酸素が不足しているかなどを評価し、指示された目標範囲に合わせます。治療しても呼吸が悪化する場合は、マスクなどで呼吸を助ける装置が必要になることもあるため、装着の苦痛だけでなく意識や呼吸の変化を伝えます[4]。
体を動かす援助も時期で変わります。呼吸・循環が不安定なときや、肺のうっ血で安静にしていても苦しいときは運動を進めず、安定後に段階的に活動を増やします。入院後の日数だけで開始を決めないことが大切です[4]。
例えばトイレ歩行が負担なら、その時点で許可された範囲で尿器やベッド上の排泄へ変更します。活動を減らす理由と再検討する条件を共有し、状態が落ち着いた後も介助を固定しないようにします。尿道カテーテルも、排泄を楽にする目的だけで一律に留置せず、尿量測定等の必要性と指示を確認します。薬剤や活動の指示が変われば、その時点の援助方法をチームで合わせます。
E-P:退院後に困ったときの行動まで確かめる
強い呼吸困難があると、長い説明を聞くこと自体が負担になります。初期は今行う治療と援助の呼び方を短く伝え、落ち着いてから、薬、食事、体重の記録、悪化時の相談へ広げます。退院後も使える連絡先と支援方法を、本人に合う形でまとめます[5]。
水分管理は、うっ血、腎機能、血液中の成分、薬の使用などによって変わります。全員を同じ制限量にせず、医師から説明された量と調整条件を確認します。慢性期の助言を、そのまま急性期の指示を変えてよいという意味にはしません[5]。
例えば「家に戻って息苦しさが増えたら、どこへ連絡しますか」と一緒に確認します。記録や説明を暗記できるかより、用意した手帳や連絡表を使えるかを確かめます。本人だけで難しい部分は、同意を得て家族等や専門職と分担します[5]。聞こえにくさや疲労があれば、説明時間や資料の大きさを変えます。説明の回数を増やすだけでなく、本人が質問しやすい状況になっているかを見直します。
食事の準備、文字の読みやすさ、薬を受け取る方法なども確認し、続けにくい理由を意欲の問題だけにしません。急な強い呼吸苦、胸痛、反応の異常では記録より救急対応を優先することを、退院前にも確かめます。
評価・見直し
・呼吸の苦しさ、休息、血圧・意識、尿量、体重等を開始時と比較し、単一の数値だけで改善としない
・ケアや活動の前後の反応から、介助量・方法・休息時間と目標期限を調整する
・治療後の新たな症状や検査の変化を共有し、薬剤、水分、活動の指示を再確認する
・本人と支援者が服薬・記録・相談方法を使えるか確認し、次の療養担当へ引き継ぐ
関連記事
・ガス交換障害の看護計画|酸素化・換気の評価と呼吸支援
酸素化と換気の違い、呼吸支援への反応を詳しく確認したいときに参照してください。
参考資料
確認日:2026年10月17日。以下の資料を踏まえた看護計画の例です。実際の援助は患者の状態、診療指示、施設の手順に合わせて調整します。
・[1]国立循環器病研究センター「心不全」(2023年9月29日更新):心不全の症状・検査・治療と生活支援 参考資料を開く
・[2]NICE Acute heart failure: diagnosis and management(CG187)(2014年公表・2021年更新):成人急性心不全の評価、利尿中の観察、安定後の支援 参考資料を開く
・[3]British Thoracic Society Guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings(2017年):成人の酸素管理とA5・6.8の体位、指示と目標に基づく管理 参考資料を開く
・[4]日本循環器学会・日本心不全学会 JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure(2025年):酸素適応、VII3.5.4急性期活動、XIセルフケア 参考資料を開く
・[5]NICE Chronic heart failure in adults(NG106)(2018年公表・2025年更新):安定後の退院支援、制限の個別化、記録・薬剤・連絡先 参考資料を開く
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