深部静脈血栓症の看護計画は、脚の腫れや痛みだけでなく、肺塞栓による急な呼吸・循環の変化と、治療に伴う出血を見逃さず、回復に合う活動を支える計画です。深部静脈血栓症は、体の深い静脈に血の塊ができる病気で、DVTと略されます。
ここでは成人の下肢DVTの診断前後から退院後までの学習用の例を示します。血栓がまだない人の予防計画とは分け、血栓の場所、肺塞栓の有無、出血リスク、抗凝固療法の状況で個別化します。妊娠・小児・上肢DVTは別の条件で検討します。
看護計画名:成人下肢DVTの変化と治療の負担を捉え、安全な活動と抗凝固療法の継続を支える看護
以下は看護計画の例です。目標の期限や援助内容は、本人の状態・希望と治療方針に合わせて設定してください。
看護目標
短期目標
・脚の痛み・腫れや新しい息苦しさを、必要な支援を受けて速やかに伝えることができる
・抗凝固療法の目的と自分の出血徴候を説明または確認できる
・許可された活動範囲と介助を用い、症状を悪化させず必要な生活動作を行うことができる
・不安や服薬・移動で困ることを相談できる
長期目標
・症状と治療段階に合う活動・休息を選び、生活へ段階的に戻ることができる
・薬の飲み方と受診予定を確認し、継続に必要な支援を利用できる
・肺塞栓や重大な出血が疑われるとき、直ちに援助を求めることができる
・脚の腫れ・皮膚変化が続くときも自己判断で放置せず相談できる
看護計画
O-P:観察・評価項目
・診断の確定状況、血栓の部位・広がり、肺塞栓の評価、治療開始時刻と活動の指示
・患肢と反対側の腫れ・周径・痛み・熱感・皮膚色、同じ部位と条件での経時変化
・呼吸数・SpO2と酸素条件、胸痛・息苦しさ・動悸、血圧・脈拍・意識・冷汗
・急な強い脚の痛み、著しい腫れ、蒼白・青紫色、冷感や感覚・運動の変化
・抗凝固薬の種類・投与状況、併用薬、血小板・ヘモグロビン・腎肝機能と薬剤別に必要な検査
・鼻出血・歯肉出血・皮下出血・血尿・黒色便・月経量、頭痛・頭部打撲の有無
・手術・がん・長期不動・過去の血栓などの背景と今回の診療方針
・移動前後の脚症状と呼吸循環、ふらつき・転倒リスク、圧迫療法の適応と装着状態
・薬の入手・管理、通院、仕事や移動の予定、本人の不安と支援者
T-P:ケア・実施項目
・診断前の新しい片脚の腫れ・痛みは直ちに報告し、自宅では当日中の医療機関への相談・診療につなぐ
・新しい息苦しさ・胸痛・失神や循環悪化では直ちに応援を呼び急変対応を開始する
・患肢を強く揉んだり痛みを誘発する検査動作を繰り返したりせず、安楽と保護を図る
・抗凝固薬は処方・最終投与を照合して実施し、出血や検査の変化を共有する
・確定後の活動は循環の安定、抗凝固開始状況、脚症状と医師の指示を確認して段階的に介助する
・長期臥床も一律の歩行促進も避け、座位・移乗・歩行での反応から介助量を調整する
・圧迫療法は症状管理の適応と処方を確かめ、皮膚・循環・サイズを確認して実施する
・清潔・排泄・転倒予防を整え、侵襲的処置後は出血の有無を確認する
・退院前に薬・活動・受診・緊急連絡を本人と支援者の生活に合わせて整理する
E-P:教育・生活支援
・脚の血栓と肺塞栓の関係を短い言葉で説明し、急な息苦しさ・胸痛・失神はすぐ知らせるよう伝える
・抗凝固薬は血栓を大きくしにくくする薬であり、症状が軽くなっても自己中止しないと説明する
・飲み忘れ時は自分の薬の指示を確認し、独自の倍量服用をしない方法を共有する
・止まらない出血、頭部打撲、黒色便などの相談・受診方法を具体的に確認する
・患肢のマッサージや自己判断での圧迫器具の追加を避け、活動・旅行を担当者へ相談する
・市販薬・サプリメント・歯科処置も事前に伝え、薬に応じた注意を確認する
・退院後の突然の強い呼吸困難・胸痛・失神、止まらない多量の出血は119番へ連絡する
・服薬記録やお薬手帳、支援者の援助を使い、自分の言葉で対応を確認する
O-P/T-P/E-Pの背景と根拠
O-P:脚の変化に加え、肺と出血の変化を同時に捉える
静脈は、脚から心臓へ血液を戻す通り道です。そこに血栓ができると戻りにくくなり、片脚の腫れや痛みが現れます。ただし症状だけでDVTとは断定できません。例えば左右差が新しく出たら、腫れの記録だけで終わらず、いつから・どの部位かを伝え、超音波などの診断へつなげます[1、2]。
血栓の一部が肺へ移動して血管を塞ぐと、急な息苦しさや胸痛、失神が起こることがあります。脚の痛みが軽いから肺も安全とは判断しません。例えば移乗中に急に息苦しくなり冷汗が出たら、予定していた歩行を続けず、応援を呼んで呼吸・循環を評価します[2]。
抗凝固薬は血栓の増大や新しい血栓を防ぐ一方、出血しやすさを伴います。外から見えるあざだけでなく、便や尿、急な頭痛、血圧・脈拍やヘモグロビンの変化を組み合わせます。例えば黒い便とふらつきが出た場合、単なる排便の変化として扱わず、出血を疑って速やかに評価を求めます[1、3]。
脚の観察は同じ位置・同じ姿勢で比べると変化が伝わりやすくなります。一方、急激な腫れや強い痛み、皮膚の青紫色や冷感があれば、定時の測定まで待ちません。これは診断手技ではなく悪化を伝えるための看護上の観察です。痛みを起こす動きを試すより、見た変化と経過を具体的に共有します[4]。
T-P:治療と活動の条件をそろえ、安楽と安全を両立する
深部静脈血栓症の看護計画では、血栓ができる前の予防策をそのまま患肢へ行わないことが大切です。例えば腫れたふくらはぎを揉んで血流をよくしようとはしません。新しい症状は診療へつなぎ、患肢を保護して楽な姿勢を整えます。圧迫装置も独自に追加せず、目的と適応を担当医に確認します[1、2]。
抗凝固薬は、腎機能、がん、出血リスクなどで種類と使い方が変わります。全員が同じ注射から内服へ進むわけではありません。例えば前の病棟での最終投与が不明なら、重複投与を避けるため処方と実施記録を照合します。必要な検査も薬ごとに確認し、看護師の判断だけで休薬・追加を決めません[1]。
確定後は永久に寝たままにする計画ではありません。治療が始まり全身状態が安定した段階で、症状と活動指示に沿って動作を戻します。例えば端座位は可能でも、立つと強い痛みや息切れが出るなら、その段階で中断・再評価します。診断名だけで歩行禁止や無制限の運動を決めず、その日の反応を次の援助へつなげます[1、2]。
弾性ストッキングは、DVT後のすべての人へ再発予防のために一律処方するものではありません。脚の症状管理に用いる場合は、サイズ、装着方法、皮膚や循環への負担を確かめます。例えばしわが食い込み足先の痛みが増えたら、我慢して継続させず装着状態と適応を再確認します。圧迫は抗凝固薬の代わりにはなりません[1]。
E-P:退院後も薬と受診を続けられる具体的な手順へつなぐ
脚の腫れが減ることと、治療を終えてよいことは同じではありません。継続期間は血栓の原因や再発・出血の危険を合わせて決まります。例えば痛みがなくなって薬をやめたくなったとき、次の診察まで中止するのではなく、担当者へ相談する手順を確認します。本人が治療の理由を言葉にできる説明にします[1]。
飲み忘れの対応や食事・他薬の注意は、抗凝固薬ごとに違います。全員に同じ食品制限や飲み忘れ時の時刻を教えません。例えば複数の内服がある人なら、薬剤師と朝夕の管理表を作り、市販の痛み止めを買うときも確認できるようにします。自分の薬に合う説明書と連絡先を手元に残します[1、3]。
再発の徴候と出血の徴候は、どちらも相談対象です。例えば新しい片脚の腫れは当日中に医療機関へ相談し、突然の強い息苦しさ・胸痛・失神は119番へ連絡します。大量の止まらない出血や意識の変化も緊急対応です。頭を強く打った場合も、見える出血がなくても速やかに医療機関へ連絡するよう共有します[2、3]。
仕事・運動・旅行の再開は、症状、抗凝固薬、通院の条件を含めて相談します。例えば長時間座る仕事に戻る人なら、許可された範囲で姿勢を変える機会と休憩を考えます。脚の重さや腫れが続くときも治療失敗と自己判断せず相談し、必要な症状管理を受けられるようにします[1、2]。
評価・見直し
・脚症状の経過を同じ条件で捉え、新たな呼吸循環の変化へ遅れず対応できたか
・抗凝固薬の実施と出血観察をつなげ、薬剤別の検査と報告条件を確認できたか
・活動前後の反応から、その日の介助と活動範囲を見直せたか
・本人または支援者が薬・緊急連絡・受診の手順を使える形で確認できたか
・脚の症状が続くときも生活への影響と必要な症状管理を再評価したか
関連記事
・活動・休息のバランスを整える看護計画|疲労の観察と生活リズムの支援
参考資料
[1]NICE:Venous thromboembolic diseases: diagnosis, management and thrombophilia testing(NG158)(2020年公表・2023年更新)
成人DVT・PEの診断、抗凝固療法、情報支援、症状に対する圧迫療法
確認日:2026年10月19日
[2]NHS:DVT (deep vein thrombosis)(2026年4月30日レビュー)
DVTの脚症状、肺塞栓徴候、治療と退院後の活動
確認日:2026年10月19日
[3]NHS:Anticoagulant medicines — Side effects(2024年9月9日レビュー)
抗凝固薬の出血徴候、頭部打撲後の受診、薬剤別の副作用
確認日:2026年10月19日
[4]ESVS:2021 Clinical Practice Guidelines on the Management of Venous Thrombosis(2021年版)
2.10節:広範なDVTでの急激な強い痛み・腫れ・青紫色や機能低下と緊急性
確認日:2026年10月19日

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