肺塞栓症の看護計画|呼吸・循環の急変と抗凝固療法の支援

肺塞栓症の看護計画は、突然の息苦しさや胸痛を捉え、呼吸だけでなく血圧・意識など循環の変化も合わせて評価し、治療と回復を支える計画です。脚などの静脈でできた血栓が肺の血管を塞ぐ肺血栓塞栓症を中心に扱います。

成人の急性肺塞栓症について、疑われる段階から治療後・退院後までの学習用例です。重症度、右心への負担、出血の危険、治療内容に応じて個別化します。妊娠・小児、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、脂肪・空気など血栓以外の塞栓の管理は対象が異なります。

看護計画名:成人急性肺塞栓症の呼吸循環悪化と治療に伴う出血を捉え、回復と治療継続を支える看護

以下は看護計画の例です。目標の期限や援助内容は、本人の状態・希望と治療方針に合わせて設定してください。

看護目標

短期目標

・息苦しさ・胸痛・動悸や気分の変化を、必要な援助を受けてすぐ伝えることができる

・病状に合う観察と治療を受け、苦痛の軽減を相談できる

・抗凝固薬の目的と注意する出血徴候を確認できる

・許可された活動範囲と介助を用い、症状に合わせて必要な動作を行うことができる

長期目標

・呼吸循環の状態に合う活動・休息を選び、段階的に生活へ戻ることができる

・本人または支援者が薬の継続・検査・受診予定を管理できる

・再発や重大な出血の徴候があるとき、必要な援助を直ちに求めることができる

・退院後に続く息切れや生活の困難を伝え、評価と支援を受けることができる

看護計画

O-P:観察・評価項目

・診断確定の状況、画像・心機能評価、重症度、治療方針と観察場所・頻度

・呼吸数・深さ・努力呼吸、SpO2と酸素条件、息苦しさ・胸痛・喀血

・血圧・脈拍・リズム・意識・末梢冷感・冷汗、必要な尿量や循環評価

・検査・移動・体位変更の前後での症状と呼吸循環の変化

・下肢の腫れ・痛み・左右差、手術・不動・がん・血栓既往などの背景

・抗凝固薬の種類・投与時刻・実施状況、血栓溶解療法や処置の有無

・出血部位・量、穿刺部・皮下出血・尿便・月経、頭痛・意識変化や転倒歴

・ヘモグロビン・血小板・腎肝機能と薬剤別に必要な検査結果

・離床の許可・中止条件、痛み・疲労・不安と動作の負担

・薬の管理・通院・支援者、退院後の息切れ・運動能力と相談先

T-P:ケア・実施項目

・突然の呼吸困難や失神、血圧低下・反応低下は直ちに応援を呼び、急変手順へつなぐ

・不安定な人を検査・歩行のために無理に移動させず、監視と必要な治療の準備を整える

・酸素・輸液・薬剤は個別の目標と指示を確かめ、実施後の呼吸循環を再評価する

・抗凝固薬の処方・最終投与・併用薬を照合し、重複や中断の不明点を解消する

・血栓溶解療法やカテーテル治療等を受ける場合、手順に沿って出血・穿刺部・神経症状を観察する

・出血や急な頭痛・意識変化は速やかに評価を求め、急変時は緊急対応を優先する

・治療開始と循環の安定を確認し、指示された段階で座位・移乗・歩行を介助する

・活動中の息切れ・胸痛・ふらつきが増えたら中断し、反応を共有して計画を見直す

・不安を聴き、負担の少ない清潔・排泄・休息を整える

・薬・受診・生活復帰と緊急時の連絡を退院前に本人と支援者で練習する

E-P:教育・生活支援

・肺の血管が血栓で塞がれる病態を簡単に説明し、症状の変化を我慢しないよう伝える

・新しい胸痛・強い息苦しさ・失神は直ちに援助を求め、退院後は119番へ連絡すると共有する

・抗凝固薬の用法、継続期間の確認日、飲み忘れ時の薬ごとの指示を整理する

・止まらない出血・血尿・黒色便・頭部打撲などの連絡方法を確認する

・自己判断の休薬・倍量服用や市販薬・サプリメントの追加を避け相談する方法を伝える

・許可範囲の活動と休息を段階的に行い、仕事・運転・長距離移動は個別に相談する

・歯科や他科受診でも抗凝固薬の使用を伝え、お薬手帳を携帯するよう説明する

・続く息切れ・疲労・動悸や生活動作の低下は再診時に伝え、悪化なら予定を待たず連絡する

O-P/T-P/E-Pの背景と根拠

O-P:肺の酸素交換と心臓から血液を送り出す力を合わせてみる

肺塞栓症では、空気を吸えていても肺の一部へ血液が流れにくくなります。また肺へ血液を送る右側の心臓に負担がかかり、重症では全身へ血液を送り出す働きも落ちます。そのため息苦しさだけでなく血圧・脈拍・意識も確認します。例えば急な息切れに冷汗や反応の鈍さが重なったら、酸素の値だけを待たず緊急評価へつなげます[1、4]。

SpO2は観察の一部で、酸素の使用条件や呼吸数、胸痛、普段との差と組み合わせます。例えば酸素を増やして値が保たれても、息をする回数や努力が増えていれば改善とは言い切れません。単一の値で重症度を決めず、変化の速さと症状の組合せを伝え、治療と観察場所の再検討につなげます[2、4]。

抗凝固薬は血栓が増えるのを抑えますが、出血への注意が必要です。穿刺部の血だけでなく、尿便、皮下出血、月経量や新しい頭痛もみます。例えば転倒して頭を打った後に外傷が目立たなくても、抗凝固薬使用中であることを共有して評価を求めます。血栓溶解療法を受けた場合は、治療に沿った出血監視がさらに重要です[1、3]。

退院に近づいても「安静時に楽だから元どおり」とは評価しません。歩行時の息切れ、疲れ、家で必要な階段など、生活に結び付く動作を確認します。例えばトイレまでで休憩が必要なら、歩行距離だけでなく回復にかかる時間と支援を記録します。症状が長引くときは単なる体力低下と決めず、診療へ戻す手掛かりにします[4]。

T-P:不安定な時期の緊急対応と、安定後の回復支援を切り替える

呼吸困難や胸痛が新しく出たとき、本人に歩いて検査室へ行ってもらう援助を優先しません。まず応援を呼び、呼吸・循環を確認して必要な治療につなげます。例えばトイレで倒れそうになった人なら、その場で安全を確保し急変手順に従います。不安による過呼吸と早合点せず、生命を脅かす原因を評価する必要があります[2、4]。

酸素・輸液・薬剤は、病態に応じた目標と処方を確認して行います。右心に負担がある人へ、血圧が低いからと独自に大量の輸液を追加する計画にはしません。看護では実施前後の呼吸・循環を比べ、反応を速やかに共有します。検査や処置の準備も、本人の状態に合う監視と人員を整えて進めます[1、4]。

肺塞栓症の看護計画では、急性期の安全確保と、安定後の長すぎる安静の回避を分けます。抗凝固療法が始まり、全身状態として安全な段階では、指示に沿った歩行を進めます。例えば座位から移乗、短い歩行へ進み、胸痛やふらつきが増えたら中断して再評価します。「治療を始めたからすぐ全員歩ける」とはしません[4]。

治療中は清潔・排泄や休息も重要です。出血が心配だから生活援助を減らすのではなく、転倒や不要な外傷を避ける方法へ調整します。例えば息切れが強い時期には動作を分け、移動が許可されたら介助量を段階的に減らします。できたことと負担を本人と確認し、不安を聴きながら回復の見通しを共有します[1、4]。

E-P:再発と出血への行動、続く息切れの相談を具体化する

抗凝固薬は症状が消えても必要な期間が続きます。終了時期は再発と出血の危険を合わせて診療で判断します。例えば息苦しさがなくなって薬をやめたい人には、症状だけでは判断できない理由と次回の見直し日を説明します。薬の入手、費用、管理が難しい場合は、服薬意欲の問題と決めず解決できる支援を探します[1]。

薬ごとに飲み忘れ時の対応、検査、他薬・食事との関係が違います。例えば内服回数が変わる処方では、いつ何錠になるかを実際の薬袋と表で確認します。説明を聞いたかだけでなく、本人に「飲み忘れたらどうしますか」と話してもらいます。異なる抗凝固薬へ同じ説明を流用しないことが、安全な継続につながります[1、3]。

退院後の新しい強い息苦しさ・胸痛・失神は、次の診察まで待たず119番へ連絡する行動と結び付けます。止まらない多量の出血や意識の変化も緊急対応です。頭部打撲や繰り返す出血などは速やかに医療機関へ連絡します。本人が再発か副作用かを診断する必要はなく、薬と病歴を伝えて助けを求められる準備をします[2、3]。

退院後に息切れや疲労が続くことは、相談してよい問題です。例えば以前は上れた階段で立ち止まる回数が増えるなら、動作と経過を記録して受診時に伝えます。悪化があれば予約日を待ちません。復職や運動、長距離移動は個別に相談し、残る血流障害などの評価も含むフォローアップへつなげます[4]。

評価・見直し

・呼吸・循環・意識の変化を合わせ、不安定化へ速やかに対応できたか

・治療内容ごとの出血と穿刺部・神経症状を評価し、報告条件を更新したか

・安定性と抗凝固療法の状況を確認し、動作中の反応から離床を調整できたか

・本人または支援者が用法・飲み忘れ・緊急連絡を具体的に確認できたか

・退院後の息切れと生活動作を追跡し、必要な診療へつなぐ予定を整えたか

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参考資料

[1]NICE:Venous thromboembolic diseases: diagnosis, management and thrombophilia testing(NG158)(2020年公表・2023年更新)
成人DVT・PEの診断、抗凝固療法、情報支援、症状に対する圧迫療法
確認日:2026年10月19日

[2]NHS:Pulmonary embolism(2023年5月25日レビュー)
急性PEの症状と救急対応、血栓と抗凝固薬の一般説明
確認日:2026年10月19日

[3]NHS:Anticoagulant medicines — Side effects(2024年9月9日レビュー)
抗凝固薬の出血徴候、頭部打撲後の受診、薬剤別の副作用
確認日:2026年10月19日

[4]AHA/ACCほか:2026 Guideline for the Evaluation and Management of Acute Pulmonary Embolism in Adults(2026年)
成人急性PEの重症度別管理、右心負荷と慎重な輸液、安定後の活動、退院後の持続症状の評価
確認日:2026年10月19日

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