看護のしくみをやさしく学ぶ|第1回
血圧が下がっているのに脈が速い。そんなとき、「体は何を補おうとしているのか」「何を確かめるとよいか」を、式を使って考える方法を説明します。式だけで原因を決めることはできません。患者さんのいつもの値、症状、経過と合わせて考えます。
まずは簡単な言葉で考える
血圧を保つには、心臓が血液を送り出す力と、血管が縮んで血液を押し返す力の両方が関係します。心臓から送り出す量は、「脈の回数」と「1回の拍動で送り出す量」で決まります。
血圧を考えるための式
= 脈の回数 × 1回で送り出す量
≒ 心臓が送り出す量 × 血管が縮んでいる程度
「血圧が下がり、脈が速い」なら何を考える?
式を使うと、血圧を保つ力が弱まる方向を2つに分けて考えられます。
①心臓が送り出す量(CO)が足りない:脈を速めていても、1回に送り出す量が大きく減っていたり、拍動のリズムが乱れていたりすると、全体の送り出す量が不足することがあります。
②血管の抵抗(SVR)が低い:血管が広がると、血液を押し返す力が弱まり、心臓が血液を送り出していても血圧を保ちにくくなります。感染に伴う血管拡張などが一例です。
両方が同時に起きることもあります。脈が速いからCOが十分とは限らず、血圧や脈拍だけから原因を決めることもできません。
たとえば、出血や水分不足で心臓に戻る血液が減ると、1回で送り出す量が少なくなることがあります。体は脈を速めて補おうとしますが、送り出す量の減少が大きいと、脈が速くても血圧は下がります。一方、感染などで血管が広がると、心臓が送り出していても血圧を保ちにくいことがあります。脈の速さだけでは見分けられないため、状況とほかの観察所見を合わせます[3,5]。
専門用語で整理すると
臨床で使う表現
= 心拍数(HR) × 1回拍出量(SV)
≒ 心拍出量(CO) × 体血管抵抗(SVR)
心拍出量は、心臓が1分間に送り出す血液の量です。1回拍出量は1回の拍動で送り出す量、体血管抵抗は血液の流れにくさを表します。平均動脈圧(MAP)は、1回の拍動のあいだの動脈圧を平均した値で、上の血圧と下の血圧を足して2で割った値とは同じではありません[1,2]。
式を使って観察を組み立てる例
例1:術後に血圧が下がり、脈が速くなった
術前は血圧120/70 mmHg、脈拍78回/分。術後に血圧88/54 mmHg、脈拍112回/分となり、冷汗とふらつきもあるとします。
脈が速くなっているのに血圧が下がっている
→ 脈を速めるだけでは補いきれない変化が起きているかもしれない
→ 出血、心臓に戻る血液の減少、心臓の働き、血管の広がりなどを状況から考える
この場合、出血が原因だと決めつけず、創部やドレーン排液、皮膚の色・冷たさ、冷汗、意識や反応、呼吸、尿量、本人の訴えを確認し、血圧と脈拍の推移を速やかに報告します。状態が不安定なら、測り直しだけを続けて報告を遅らせず、施設の急変対応手順に従います。
例2:発熱があり、血圧が下がって脈が速い
感染などで血管が広がると、血管の抵抗が下がって血圧を保ちにくくなることがあります。脈が速いのは、発熱への反応や血圧を保つ反応など複数の可能性があります。体温、呼吸、意識や反応、皮膚の様子、尿量、血圧と脈拍の変化を合わせて、施設の手順に沿って報告します[3,5]。
例3:脈が速いが、血圧は保たれている
痛み、発熱、不安、動いた直後などでも脈は速くなることがあります。血圧が保たれているから問題ない、あるいは脈が速いから心拍出量が増えている、とすぐには判断できません。安静時の値、症状、脈のリズム、呼吸、皮膚や意識の変化、発症した状況を確認します。
血圧が下がる主なしくみ
1.心臓に戻る血液が減る
出血や水分不足などで心臓に戻る血液が減ると、心臓に満たされる量が減り、1回で送り出す量が少なくなることがあります。体は脈を速くしたり血管を縮めたりして補おうとします。ただし、高齢者、脈を遅くする薬を使う人、不整脈がある人などでは反応が異なります。脈拍だけで出血や脱水を決めず、出血、飲水・点滴、尿量、皮膚や意識の変化も確認します[5]。
2.血管が広がる
血管が広がると体血管抵抗が下がり、血圧を保ちにくくなることがあります。敗血症性ショックなどでは、血管の広がりだけでなく、心臓の働きや血液の分布など複数の変化が関係します[3,5]。皮膚が温かい・冷たいという所見だけで原因や重症度を決めず、血圧の推移、脈拍、呼吸、意識や反応、尿量、本人の訴えを合わせて見ます。
3.心臓が血液を送り出しにくい
心臓の筋肉が弱っているときや、拍動のリズムが大きく乱れたときは、心臓から送り出す血液が減ることがあります。心不全や不整脈など背景はさまざまです。血圧だけでなく、息苦しさ、胸の症状、脈の速さや乱れ、意識・反応、手足の冷たさを確認します。息苦しさが強まる、反応が鈍くなるなどの変化があれば、施設の急変対応手順に沿って応援を要請します[5]。
看護で確認する順番
1.測定条件を確かめる
カフ(腕に巻く帯)の大きさや位置、腕の高さ、体位、会話や体動の有無を確認します。測り直すときは施設の手順に沿って条件を整えます。状態が不安定なら、測定条件の確認と応援要請・必要な初期対応を並行し、再測定のために報告を遅らせません[4]。
2.いつもの値・直前の値と比べる
普段から血圧が低めの人と、短時間で急に下がった人では意味が異なることがあります。1回の値だけで判断せず、いつから変わったか、どのくらい続くか、体位や処置の前後でどう変わったかを確認します。
3.血圧以外の変化と背景を合わせる
脈拍とリズム、呼吸、意識や反応、皮膚の色・冷たさ・冷汗、尿量、めまいやふらつきを一緒に見ます。出血、発熱や感染、水分の摂取と排泄、心臓・腎臓の病気、不整脈、最近始まった薬や量が変わった薬、点滴や処置の状況も確認します。尿量や検査値は測定間隔や治療の影響も受けるため、いつの情報かも確かめます。「血圧が低いから脱水」と決めつけず、分かったことと未確認のことを分けて共有します。ショックの評価では、血圧や脈拍の一項目だけでなく複数の所見を組み合わせます[5]。
「平均動脈圧65 mmHg」は全員共通の線引きではない
平均動脈圧65 mmHgは、成人の敗血症性ショックで治療を始める際の目標として国際ガイドラインに示されています[3]。これは特定の病気と治療場面についての目標で、すべての人に当てはまる「ここより低いと危険」という境界ではありません。年齢、普段の血圧、症状、治療への反応や医師の指示を踏まえて評価します。
報告は「値・変化・症状・背景」をそろえる
報告では血圧と脈拍の値・測定時刻に加えて、普段や直前からの変化、呼吸・意識・本人の訴え、出血や感染などの背景、行った対応とその後の様子を伝えます。
「術前より血圧が下がり、脈拍が78回から112回に増えています。冷汗とふらつきがあり、創部とドレーン排液を確認しています。意識は呼びかけに反応します。すぐに診察をお願いします」
意識がぼんやりする、呼吸が苦しい、冷汗や顔色不良が急に出る、出血が増える場合は速やかに報告し、必要時は急変対応を要請します。実際の対応は患者さんの状態、個別の指示、施設の手順に従います。
まとめ
「血圧が下がり、脈が速い」場合、体が血圧を保とうとしている可能性があります。しかし、脈の速さだけで原因や心臓が送り出す量を決めることはできません。いつもの値との違い、血圧と脈拍の推移、症状、皮膚、意識、尿量、治療や薬の状況を合わせて観察し、変化を速やかに共有します。
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参考資料
参考資料確認日:2026年10月30日。式は関係を理解するための近似であり、個々の患者さんの血圧や原因を計算で確定するものではありません。
・[1]Trammel JE, Sapra A. Physiology, Systemic Vascular Resistance. StatPearls [Internet]. NCBI Bookshelf(2023年7月10日更新) 資料を開く
・[2]DeMers D, Wachs D. Physiology, Mean Arterial Pressure. StatPearls [Internet]. NCBI Bookshelf(2023年4月10日更新) 資料を開く
・[3]Society of Critical Care Medicine, European Society of Intensive Care Medicine. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026(2026年) 資料を開く
・[4]American Heart Association. Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association(2019年) 資料を開く
・[5]Cecconi M, De Backer D, Antonelli M, et al. Consensus on circulatory shock and hemodynamic monitoring. Intensive Care Medicine. 2014;40:1795–1815. 資料を開く

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