産後出血の看護計画|循環の観察と緊急対応・回復支援

産後出血の看護計画は、出血を客観的に捉えると同時に、全身へ血液が届かなくなる徴候を見つけ、迅速な治療と回復を支える計画です。見えている血液の量が少なくても、意識・脈拍・呼吸や尿量の変化があれば緊急評価へつなぎます。

ここでは成人の出産後の異常出血を対象とする学習用の計画例を示します。経腟分娩と帝王切開後、出産直後と退院後では原因や対応が異なります。出血が続く場面では個別の緊急手順を優先し、観察・輸液輸血・止血処置、回復期の活動と評価日は状態に合わせて調整します。

看護計画名:産後出血による循環不全を早期に捉え、迅速な止血・蘇生と心身の回復を支える看護

以下は看護計画の例です。目標の期限や援助内容は、本人の状態・希望と治療方針に合わせて設定してください。

看護目標

短期目標

・めまい・動悸・息苦しさや出血の増加を伝え、速やかな評価を受けられる

・緊急時に必要な治療と安全確保を受けられる

・状態が落ち着いた後、疲労や痛みに合う援助を受けられる

・治療経過への疑問や希望を本人のペースで伝えられる

長期目標

・貧血や体力の回復に合わせ、援助を利用して活動・育児を広げられる

・処方された治療と再検査・受診を支援を受けて続けられる

・出血の再増加や感染を疑う変化に気づき相談できる

・出産体験の不安と今後の妊娠について必要な支援を受けられる

看護計画

O-P:観察・評価項目

・分娩方法・時刻、胎盤の状況、処置・手術経過と既往の出血リスク

・出血の開始・継続・増加の速さ、計測方法と累積量、血塊・悪露の性状

・意識・反応、脈拍・血圧・呼吸・SpO2、冷汗・顔色・末梢の冷感

・子宮の硬さ・位置、腹部の膨満・痛み、会陰等の痛み・腫れ

・排尿・尿量、カテーテル開通、輸液・輸血を含む入出量

・ヘモグロビン・血小板・凝固・フィブリノゲン等の経時変化

・子宮収縮薬・止血薬・輸液輸血・止血処置の内容と反応

・輸血時の発熱・悪寒・発疹・呼吸苦など新たな反応

・使用中のバルーン・ドレーン等の排液と固定、指示された観察条件

・止血後の再出血、起立時のめまい・動悸・疲労、痛みと睡眠

・授乳・育児への希望と体力、支援者・家事や通院の援助

・退院後の発熱、悪臭のある悪露・下腹部痛と出血の増加

T-P:ケア・実施項目

・異常出血や循環の悪化を認めたら直ちに応援と産科評価を求め、緊急手順を開始する

・出血量の確定や採血結果を待たず、意識・呼吸・循環の異常を報告する

・母体の安定化と児の安全な預かりを優先し、本人を一人にしない体制を整える

・発症・分娩時刻、出血量の経過、処置と反応を記録し、搬送先を含め共有する

・施設の方法で出血を計測し、尿や羊水等の混入・計測できない部分を明示する

・指示と習熟した手順に沿い、血管確保・検体採取・酸素や保温・尿量監視を準備実施する

・子宮収縮薬・トラネキサム酸・輸液輸血は適応と禁忌を照合し、個別指示で迅速に実施する

・訓練された担当者による子宮の評価と必要なマッサージ、産道・胎盤遺残の診察や止血処置を補助する

・出血が続く場合のバルーン・手術・血管内治療、輸血・高次施設搬送の準備を並行する

・輸液輸血中は呼吸・循環と体温、出血・検査の反応を追い、過負荷や副反応を直ちに報告する

・止血後も再出血と貧血・疲労を評価し、離床・栄養・育児と血栓予防を個別に調整する

・緊急時も本人と支援者へ短く説明し、落ち着いてから経過を振り返る機会を整える

E-P:教育・生活支援

・通常の悪露があっても、急に多くなる出血や気分不良はすぐに知らせるよう説明する

・自宅で大量出血、失神・意識低下・強い息苦しさや冷汗を伴う場合は119番を利用する

・出血が増える、悪臭・発熱・下腹部痛がある場合は直ちに出産施設へ相談する

・止血後も貧血と疲労が残る場合があり、無理をせず家事・育児の援助を頼む方法を相談する

・鉄剤等の処方目的と飲み方、副作用や飲めない場合の相談方法を確認する

・栄養と休息を確保し、授乳は希望・体力・治療の条件に合わせて支援を受けられると説明する

・血栓予防薬等が必要な場合は出血状況を踏まえた個別指示を守り、自己判断で中断・追加しない方法を確認する

・退院後の血液検査や受診日、休日・夜間の連絡先と移動手段を確認する

・不安・怖さ・落ち込みが続く場合に出産施設や地域の相談先へつながる方法を共有する

・次の妊娠では産後出血の経過を早期に伝え、分娩場所や予防について相談するよう説明する

O-P/T-P/E-Pの背景と根拠

O-P:見える血液だけでなく循環の変化を追う

出産後は胎盤が剝がれた場所の血管を、子宮が縮むことで圧迫し止血します。十分に縮まない弛緩出血のほか、産道の傷、胎盤の一部が残る状態、血液を固める働きの異常でも出血します。例えば子宮が硬くても出血が続くときは、収縮だけの問題と決めず、診察で原因を確かめる必要があります[1〜3]。

目測だけでは血液の量を少なく見積もることがあります。施設の方法で回収した血液や血液を含む物品を計測し、累積量と速さを共有します。例えばパッド交換のたびに量が少なく見えても、短時間に何度も交換していれば見逃せません。羊水や尿の混入、体内など計測できない部分も記録します[1、2]。

出血が進むと全身へ届く血液が不足し、脈拍の増加、冷汗、反応の低下、尿量低下などが現れます。出血量が一定の基準を超えるまで待つ考え方は危険です。例えば「気が遠くなる」という訴えと頻脈があれば、計測を完了する前に応援を求めます。正常に近い血圧だけで循環が保たれているとは判断しません[1、2]。

産科出血は急に悪化し、血液を固める材料が消費されるDICを伴うことがあります。ヘモグロビンだけでなく血小板・凝固・フィブリノゲン等の経過を確認します。例えば止血処置後もじわじわ出血が続く場合は、原因部位と凝固の両方の評価が必要です。初回の検査だけで経過を決めず、処置後の変化を伝えます[1]。

止血後の疲労やめまいは回復と育児に影響します。また退院後に出血が増える場合は、子宮内の感染や胎盤遺残などが関係することがあります。例えば一度減った悪露が増え、悪臭や発熱もあるなら「産後だから」と済ませません。出血時期・全身の症状と生活への影響を合わせて評価へつなぎます[3]。

T-P:止血と全身を支える処置を同時に進める

産後出血の看護計画では、応援要請、出血原因への対応、循環を支える処置を切り離しません。例えば重い出血では担当者一人が観察を続けず、産科・麻酔科・輸血部門などへ役割を分けます。必要時は高次施設への搬送も進めます。出血の勢いと反応が変われば、決めた手順を続けるだけでなく再評価を求めます[1、2]。

子宮の収縮を促す薬、出血を抑える薬、輸液、診察や止血処置は、適応と禁忌を確認して迅速に組み合わせます。トラネキサム酸には出産時刻を起点とする早期投与の条件があるため、分娩時刻も共有します。例えば原因の最終確定を待つ間も、指示された初期対応を遅らせません。薬の独自の用量表は使いません[1、2]。

子宮の状態を触れて確かめる観察と、出血治療のために行うマッサージは同じではありません。必要な治療は訓練と施設手順に沿って行い、出血がない全員へ持続的な刺激を加えることを一律の予防策にしません。例えば子宮が縮んでも出血が続けば、刺激を繰り返すだけで終わらず、別の出血原因の評価を求めます[2]。

輸液輸血は止血処置を進める間の循環と酸素運搬を支えますが、同じ量を全員へ流せばよいわけではありません。出血・呼吸・尿量と検査を追い、特に心疾患や妊娠高血圧腎症では過負荷にも注意します。輸血中に発熱や息苦しさが出たら、原疾患の悪化と決めず、副反応も含む緊急評価と施設手順に沿って対応します[1、2]。

急変では児を安全に預かり、母体の治療を優先します。落ち着いた後も、貧血や睡眠不足を踏まえて移動・食事・育児を支えます。例えば授乳を希望する人には体力に合う方法と援助を相談します。出血後は血栓の危険も変わるため、抗凝固薬の開始を独自に決めず、止血と麻酔等の条件をチームで再評価します[3]。

E-P:回復期と退院後の再出血に備える

産後の出血は減っていくことが多い一方、本人が正常範囲を見分けるのは難しい場合があります。例えば急にパッドが何度も必要になる、血塊が増える、めまいがあるときは、次の健診を待ちません。大量出血や失神・強い呼吸苦・冷汗がある場合は119番へ連絡し、本人が一人で歩いたり運転したりしないよう支援者にも伝えます[1、3]。

退院後の異常出血は、出産直後の弛緩出血と同じ原因とは限りません。発熱、悪臭のある悪露、下腹部痛や出血の増加は直ちに出産施設へ相談します。例えば量が急激でなくても体調不良が重なる場合は報告します。家庭で腹部を強く揉んで止めようとせず、発症と経過を伝え、必要な診察を受けます[3]。

出血後の貧血では、食事だけで短期間に十分な回復が得られるとは限りません。鉄剤等が処方された場合は、飲み方と副作用、検査予定を確認します。例えば気持ち悪くて飲めない人は自己中断を責めず、処方の相談へつなぎます。息切れや疲れが強ければ育児や家事を分担し、体調に合わせて活動を広げます[3]。

急に多くの医療者が集まり処置を受けた経験は、本人や支援者に怖さを残すことがあります。例えば「何が起きたか分からない」と感じる人には、希望に合わせて経過を説明する機会を整えます。無理に話すよう求めず、不安や落ち込みが続く場合の相談先を確認します。母体と児が離れていた場合も気持ちを聞きます[3]。

産後出血の看護計画は、退院できた時点で終わりではありません。次の妊娠では今回の出血と処置を早期に伝えると、分娩場所や事前の貧血治療を相談できます。例えば本人が説明しにくければ、退院時の記録を持参する方法を考えます。再発を必ず起こすと不安を強めず、備えるために継続して相談できると伝えます[3]。

評価・見直し

・出血の計測と循環の評価を並行し、応援・緊急対応を遅らせなかったか

・原因検索・止血と輸液輸血、必要な搬送準備をチームで進めたか

・処置後の出血・意識・呼吸・尿量・検査の反応と副作用を共有したか

・貧血と心身の負担に合わせ、活動・授乳や育児の援助を調整したか

・退院後の再出血の相談先と緊急要請、受診予定を本人・支援者が確認できたか

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参考資料

[1]日本産科婦人科学会ほか6団体:産科危機的出血への対応指針2022(2022年1月改訂)
産科出血の急速な悪化、循環・出血・凝固の評価、輸血とチーム・搬送対応
確認日:2026年10月19日

[2]WHO・FIGO・ICM:Consolidated guidelines for the prevention, diagnosis and treatment of postpartum haemorrhage(2025年)
推奨20〜29の出血計測・早期対応、治療と予防の区別、早期TXA・輸液の条件
確認日:2026年10月19日

[3]RCOG:Heavy bleeding after birth (postpartum haemorrhage)(2016年12月公開・更新作業中)
産後早期と二次性出血、原因と治療の説明、貧血・育児・心理支援と次回妊娠
確認日:2026年10月19日

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