糖尿病性ケトアシドーシスの看護計画は、インスリンが不足してケトン体という物質が増え、血液が酸性に傾く緊急の状態を捉え、呼吸・循環と治療中の安全を守る計画です。DKAと略され、血糖値だけで発症の有無や改善を判断しないことが重要です。
ここでは成人のDKAの急性期から退院支援を対象とした学習用の計画例を示します。小児・妊娠中の治療や高浸透圧高血糖症候群の管理は別の条件で検討します。SGLT2阻害薬の使用中などには著しい高血糖がなくても起こります。輸液・インスリン・電解質の調整は病状と心腎機能、検査結果、施設手順と個別指示に沿って行います。
看護計画名:DKAによる意識・呼吸循環と体液の変化を捉え、治療中の低血糖・電解質異常を防ぎ再発予防を支える看護
以下は看護計画の例です。目標の期限や援助内容は、本人の状態・希望と治療方針に合わせて設定してください。
看護目標
短期目標
・意識・呼吸・循環の変化に応じて、遅れず必要な治療と援助を受けることができる
・口渇・吐き気・腹痛や息苦しさを、可能な方法で伝えることができる
・血糖・ケトン体・酸塩基と電解質を評価され、病状に合う体液と薬の調整を受けることができる
・不安や薬の使用・摂取の状況を、支援を受けて伝えることができる
長期目標
・回復に応じた食事・インスリンと活動の計画を、必要な援助を受けて実行できる
・今回の発症に関わった病気や薬・生活上の課題と、次の治療計画を確認できる
・体調不良時の測定・薬の扱いと連絡方法を、本人または支援者が確認できる
・必要な薬・機器・通院と相談支援を利用し、悪化徴候があれば早く援助を求めることができる
看護計画
O-P:観察・評価項目
・診断・重症度と管理場所、観察・採血の頻度、個別の治療目標と急変時の方針
・意識・見当識・呼びかけへの反応、頭痛・けいれんなど新たな神経症状
・呼吸数・深さ・努力、SpO2と酸素条件、普段と異なる深い呼吸
・血圧・脈拍・心電図、末梢の冷感・冷汗、尿量と循環の変化
・口渇・多尿から尿量低下への経過、摂取・嘔吐・入出量、体重と浮腫
・血糖・血中ケトン体、静脈血pH・重炭酸など酸塩基の推移と採血時刻
・カリウム・ナトリウム・腎機能等の推移、動悸・筋力低下と検査への対応
・輸液・インスリン・糖や電解質補充の種類・量・速度と実施、治療前後の反応
・吐き気・嘔吐・腹痛、飲み込み・摂取、食事と皮下注射への移行条件
・発熱・感染等の誘因、糖尿病歴・薬・SGLT2阻害薬、最終インスリンとポンプの使用状況
・薬・物品の入手、注射や測定の手技、不安・費用・仕事・支援者と受診の手段
T-P:ケア・実施項目
・DKAが疑われる意識・呼吸循環の変化は直ちに報告し、反応低下や循環悪化では応援を呼び急変手順につなぐ
・検査・移動の準備中も全身状態を観察し、重症度と必要な監視に合う管理場所へつなぐ
・輸液は指示された種類・量・速度で実施し、入出量・循環と呼吸・浮腫を反復評価する
・インスリン開始前のカリウム等の安全条件と処方を確認し、満たさない場合は予定どおり開始せず直ちに指示を照会する
・インスリンと糖・カリウム等の補充は施設手順と指示に沿って実施し、投与経路・濃度・速度を照合する
・血糖低下だけで治療を終了せず、ケトン体・酸塩基と症状を共有して次の指示を確認する
・低血糖・カリウム異常、急な意識や呼吸循環の悪化は直ちに報告し必要な対応を行う
・意識低下・嘔吐時は口から無理に飲ませず、気道の安全と口腔ケア・苦痛緩和を図る
・原因となる感染等の検査・治療を補助し、薬の使用状況やインスリン中断の事情を共有する
・食事と皮下インスリンへ移る際は、持続投与終了との時間関係・摂取と指示を照合し治療の空白を避ける
・回復後に発症のきっかけを本人と振り返り、シックデイの個別計画と物品・支援を整える
E-P:教育・生活支援
・ケトン体が増えて血液が酸性になる病態と、血糖だけでは改善を判断できない理由を説明する
・吐き気・腹痛・深い呼吸・強いだるさや意識の変化を我慢せず知らせるよう伝える
・SGLT2阻害薬使用中は、血糖がさほど高くなくても症状があれば直ちに相談すると共有する
・インスリンを必要とする人は、食べられないことだけを理由に自己判断で中断せず、種類別の対応を事前に確認する
・体調不良時の薬の休薬・継続と再開、血糖・必要時ケトン体の測定を個別のシックデイ計画で確認する
・繰り返す嘔吐や水分を保てない状態は直ちに連絡し、反応低下・混乱・異常に深い呼吸などDKAを疑う重い症状は119番へ連絡する
・測定やインスリンの物品・薬が不足しそうな場合、早めに相談できる連絡先を整える
・本人や支援者の実演と言葉で注射・測定・緊急連絡を確認し、再診の手段を共有する
O-P/T-P/E-Pの背景と根拠
O-P:意識・呼吸・循環と、血糖以外の検査の変化を合わせて捉える
インスリンが不足すると、体は糖を十分に利用しにくくなり、脂肪からケトン体を多く作ります。それが増えて血液が酸性に傾くと、吐き気・腹痛や深い呼吸、意識の変化が現れます。例えば糖尿病のある人が嘔吐を繰り返し、いつもより深く呼吸していたら、胃腸炎や不安だけと決めず、血糖・ケトン体等の評価へつなげます[1、2]。
SGLT2阻害薬は糖を尿へ出す働きがあり、使用中のDKAでは著しい高血糖を伴わないことがあります。例えば普段と近い血糖でも、強いだるさ・吐き気・腹痛があれば、薬の名前と最終使用を伝え、直ちに診療へつなぎます。ケトン体が出たことだけでも確定せず、糖尿病歴、酸塩基と臨床状態を合わせて診断されます[1〜3]。
高血糖による尿への水分喪失や嘔吐で脱水が進むと、循環や腎機能に影響します。口渇と多尿が続いた後に尿が減った場合も、単にトイレが減って楽になったと捉えません。血圧・脈拍、反応、入出量と腎機能の推移を比べます。心・腎機能の障害がある人は体液過剰も起こりやすく、呼吸や浮腫を合わせて確認します[1、2]。
カリウムは心臓や筋肉が働くために必要な電解質です。DKAでは体全体で不足していても、細胞から血液側へ移るため、初めの血中濃度が高い場合があります。治療で細胞へ戻ると低下し、不整脈などの危険につながります。例えば開始前の値が高かった人でも、その後の採血と心電図・筋力の変化を継続してみます[1、2]。
血糖が下がっても、ケトン体や酸性の状態が十分に改善していないことがあります。改善の判断は、血中ケトン体と静脈血pH・重炭酸などを含む医師の評価と合わせます。尿ケトンは回復中も変化が残り得るため、尿の陰性化だけを終了条件にしません。例えば意識がよくなった時点でも、直近の検査と次の治療方針を確認します[1]。
T-P:輸液・インスリン・電解質を一体として扱い、治療中の悪化を防ぐ
糖尿病性ケトアシドーシスの看護計画では、検査値の確認と同時に呼吸・循環を守ります。反応低下や循環不全があれば直ちに応援を呼び、監視と治療に必要な人員・場所を整えます。例えば自力で立てない人を採血や検査のために歩かせず、状態に合う移動方法を選びます。観察や採血の頻度も、重症度と施設手順を確認します[1、2]。
輸液は循環と失われた水分・電解質を補いますが、全員へ同じ量を速く入れることはしません。高齢者や心不全、透析中などでは、過剰な補液が呼吸の悪化につながることがあります。例えば投与中に息苦しさや浮腫が増えたら、低い血圧や少ない尿だけを理由に増量せず、現在の投与と反応を直ちに共有して再評価を受けます[1、2]。
インスリンは血糖を下げるだけでなく、ケトン体が過剰に作られるのを抑える治療です。開始前にカリウムなどを確認し、低い場合には先に補正が必要かを医師と確認します。治療中も低血糖とカリウム低下を監視します。例えば血糖が低下してもDKAが残る人では、糖を含む輸液を併用しながら治療を続ける場合があり、独自に投与を止めません[1、2]。
意識低下や嘔吐がある間は、口渇の訴えがあっても無理に飲ませず、安全な補給方法と口腔ケアを整えます。回復して食事と皮下注射へ移る際も、食べられるかと持続投与終了の時間関係を照合します。例えば食事が遅れているなら、そのまま予定の投与・終了を進めず担当者へ確認します。インスリンが必要な時間に治療の空白ができないよう引き継ぎます[1]。
感染症などの原因への治療と、インスリンが使えなかった事情への支援を並行します。例えばポンプの不具合、薬の残量不足、費用や注射への不安があったなら、「自己管理が悪い」で終えず具体的な問題を共有します。回復後は手技と物品を確認し、再び同じ状況になったときの相談先と代替手順を、医療チームで整えます[1、4]。
E-P:体調不良時の判断を一律にせず、本人が使える相談計画を作る
発熱・下痢・嘔吐や食べられない日をシックデイといいます。体調不良時は血糖が上がる場合も、食事不足で下がる場合もあるため、普段の薬を全部同じように扱いません。例えば何を食べられたか、血糖・症状と最終使用を電話で伝えられるよう、メモの項目を本人と練習します。薬の調整と相談基準は元気な時に決めて書いておきます[4]。
インスリンを必要とする人が、食べられないからと自己判断で中断するとDKAにつながる場合があります。一方で、薬の種類によって体調不良時の休薬が必要なこともあります。例えば基礎インスリンと食事に合わせるインスリン、飲み薬を分け、今回の指示と連絡先を確認します。一律の減量率や追加量を覚えさせず、事前の個別計画に沿って相談します[1、2、4]。
SGLT2阻害薬を使う人には、血糖だけでは気づけない場合があることを伝えます。例えば吐き気や腹痛が続けば「血糖が高くないから大丈夫」とせず、直ちに医療機関へ相談します。体調不良時の休薬と再開も担当者との計画に含め、DKA後に元の薬を自動で再開しません。ケトン体測定の必要性と道具の扱いは、本人の治療に応じて指導を受けます[1、3、4]。
繰り返す嘔吐や飲んでも吐いてしまう状態では、次の診察まで待たず直ちに医療機関へ連絡します。強い眠気・混乱や反応低下、普段と異なる深い呼吸などDKAを疑う重い症状があるときは、血糖やケトン体を測れるまで待たず119番へ連絡します。初めて糖尿病が疑われた人も対象で、自分で運転せず薬や病歴を伝えます[4、5]。
退院後に実行できるかを、説明の理解だけでなく物品・生活の条件から確かめます。例えば血糖測定器はあっても消耗品を買えない人、仕事中に注射する場所がない人では、その問題を相談支援へつなぎます。本人や支援者の実演で注射・測定を確認し、再診と困った時の連絡方法を整えます。今回の経験への不安を聞くことも、再発予防の一部です[1、4]。
評価・見直し
・意識・呼吸・循環の悪化と重症度に合う監視・治療へ遅れずつなげられたか
・血糖だけでなくケトン体・酸塩基・カリウムと腎機能の推移を確認できたか
・輸液の不足と過剰、治療中の低血糖や電解質異常に応じて指示の確認と対応を行えたか
・食事・皮下注射への移行時に摂取と投与の時間関係を照合し、治療の空白を避けられたか
・発症の誘因と生活上の困難を整理し、本人や支援者がシックデイ・緊急連絡と物品の準備を確認できたか
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・在宅での糖尿病の看護計画|血糖の観察と服薬・食事・生活支援
・栄養摂取量不足のリスクに対する看護計画|食欲・摂取量の評価と食事支援
参考資料
[1]Umpierrezら/ADA・EASDほか:Hyperglycemic Crises in Adults With Diabetes: A Consensus Report(2024年)
成人DKAの病態・診断、体液/インスリン/カリウム、改善判定、治療合併症、特殊条件と退院支援
確認日:2026年10月19日
[2]日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2024 第20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ(2024年)
20-1:DKAの症状・病態、高血糖を伴わない条件、輸液/電解質とインスリンの管理。改善判定は参考資料1の2024成人声明を参照
確認日:2026年10月19日
[3]日本糖尿病学会:糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2022年7月26日改訂)
糖尿病でのSGLT2阻害薬使用時のシックデイ休薬、正常血糖でもケトアシドーシスを疑う症状と評価
確認日:2026年10月19日
[4]国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター:シックデイ(2025年10月23日更新)
体調不良時の血糖変動、薬剤別に事前相談する計画、インスリン自己中断の回避、連絡する情報
確認日:2026年10月19日
[5]NHS:Diabetic ketoacidosis(2023年6月8日確認)
DKAの症状と緊急の受診、ケトン値不明でも症状がある場合の救急対応、退院後の相談
確認日:2026年10月19日

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